令和6年11月1日、フリーランスの就業環境を大きく変える「フリーランス新法」が施行されます。
「フリーランス新法」とは正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。
この法律は、フリーランス[1]と発注者間の適正な取引を促進し、安定した労働環境を整備することを目的としています。
具体的には増加の一途をたどるフリーランスの就業環境を改善し、適正な取引を促進することです。
契約内容の書面化義務や報酬支払期限のルール化など、フリーランスの権利を保護する重要な規定が盛り込まれています。
本記事では、この新法の概要と企業に求められる対応について詳しく解説します。
法律制定の背景
近年、日本では働き方の多様化が進み、フリーランスとして活動する人々が急増しています。
2020年の調査によると、フリーランス人口は209万人に達しました[2]。
しかしながらフリーランスの増加に伴い、フリーランスが直面する問題も浮き彫りになってきました。
具体的には、約4割のフリーランスが不当な扱いを経験し、約20%が取引条件の事後変更を、約10%がハラスメントを経験したという調査結果があります。
これらの問題に対処するため、2021年3月に政府は「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定しました[3]。
しかし、ガイドラインだけでは十分な保護が難しいと判断され、より強力な法的枠組みの必要性が認識されるようになったのです。
そこで、フリーランスの就業環境を改善し、適正な取引を促進することを目的とするフリーランス新法が2023年4月28日に成立しました。
フリーランス新法の主要ポイント
1. 適用対象
まずフリーランス新法が対象とする取引は、フリーランスと発注事業者との間の取引です。
フリーランスと消費者で行われる取引は対象外となります。
またBtoBの取引であっても、末端の商品(消費者向け商品)を販売することや再委託を除くフリーランス同士の取引(従業員を雇っていない者同士の取引)はフリーランス新法の対象にはなりません。
特定受託事業者(フリーランス)
フリーランス新法における「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者で、次のいずれかに該当するものを指します。
- 個人であって、従業員を使用しないもの
- 法人であって、以下の両方の条件を満たすもの
✓人の代表者以外に他の役員がいない
✓従業員を使用していない
(ここでいう役員には、理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事、監査役、またはこれらに準ずる者が含まれます)
この定義は、フリーランスとして活動する個人事業主や小規模な法人を対象としています。
従業員を雇用していないことが重要な条件となっており、これによって1人で事業を行うフリーランスを保護の対象としています。
特定受託事業者は、フリーランス新法によって取引の適正化や就業環境の整備などの保護を受けることができます。
特定業務委託事業者(発注者側)
フリーランス新法における「特定業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、次のいずれかに該当するものを指します。
- 個人であって、従業員を使用するもの
- 法人であって、以下のいずれかの条件を満たすもの
✓2人以上の役員がいる
✓従業員を使用している
ここでの重要なポイントは、「特定受託事業者(フリーランス)に業務を委託する立場にあること」と「従業員を雇用していること、または法人の場合は複数の役員がいること」です。
特定業務委託事業者は、フリーランス新法において、特定受託事業者(フリーランス)との取引に関して様々な義務を負うことになります(主な規定内容へ)。
これらの規定により、フリーランスとの取引の適正化が図られることが期待されています。
業務委託事業者
フリーランス新法における「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいいます。
つまりフリーランス(特定受託事業者)に業務委託をするフリーランスは業務受託事業者と呼ばれ、フリーランス新法が適用されます。
2. 主な規定内容
フリーランス新法の主な規定内容は以下の通りです。
契約内容の書面化義務
発注事業者は、フリーランスとの取引において、契約内容、報酬額、支払期日などの重要事項を書面または電磁的記録で明示することが義務付けられました。
これにより、フリーランスは下請法と同様の保護を受けられるようになり、契約条件の明確化によるトラブル防止が期待されます。
報酬支払期限のルール化
発注事業者は、原則として給付受領後60日以内(再委託の場合は30日以内)に報酬を支払うことが義務付けられました。
これにより、フリーランスの安定した収入確保が図られます。
フリーランスの利益を損なう不当な扱いの禁止
発注事業者による以下の行為が禁止されています。
- 正当な理由のない成果物の受領拒否や返品
- 不当な報酬の減額
- 著しく低い報酬の決定
- 発注事業者指定商品の購入強制
ハラスメント防止対策など就業環境整備
発注事業者は、フリーランスに対するハラスメント防止対策を含む就業環境の整備が求められます。
これは労働法に類似した規制であり、フリーランスにも労働者に準じた保護を提供することを目的としています。
これらの規定により、フリーランスの権利保護と適正な取引環境の整備が進むことが期待されます。
3. 罰則規定
フリーランス新法には、違反行為に対する罰則規定が設けられています。
公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣は、違反行為に対して助言、指導、報告徴収、立入検査、勧告、公表、命令などの措置を講じることができます。
特に重要なのは、命令違反や検査拒否があった場合、50万円以下の罰金が科される可能性があることです。
さらに、法人両罰規定により、違反行為を行った個人だけでなく、その所属する法人にも罰金が科される可能性があります。
これらの罰則規定は、フリーランスの権利を保護し、適正な取引環境を整備するための抑止力として機能することが期待されています。
特定業務委託事業者(発注者側)に求められる対応
特定業務委託事業者に求められることは以下の通りです。
1.契約内容の明示
特定業務委託事業者は、フリーランス(特定受託事業者)との取引において、以下の事項を書面または電磁的記録で明示する必要があります。
- 委託する業務の内容
- 報酬額、支払期日、支払方法
- 業務に係る諸経費の取扱い
- 成果物の納期や役務の提供期日
- 契約解除に関する事項
2.報酬支払いのルール遵守
給付受領後60日以内(再委託の場合は30日以内)に報酬を支払うことが義務付けられています。
この期間はできるだけ短くすることが求められます。
3.不当な扱いの禁止
以下のような行為が禁止されています:
- 正当な理由のない成果物の受領拒否や返品
- 不当な報酬の減額
- 著しく低い報酬の決定
- 自社指定商品の購入強制
4.就業環境の整備
フリーランスに対するハラスメント防止対策を含む就業環境の整備が求められます。
5.法令遵守体制の構築
上記の義務を適切に履行するため、社内規程の整備や従業員教育など、法令遵守体制を構築する必要があります。
これらの対応を適切に行うことで、フリーランスとの公正な取引関係を築き、法令違反のリスクを回避することができます。
特定受託事業者(フリーランス)に求められる対応
特定受託事業者(フリーランス)に求められることは以下の通りです。
1.契約内容の確認
特定業務委託事業者(発注者)から提示される契約内容を十分に確認することが重要です。特に以下の点に注意を払う必要があります。
- 委託される業務の具体的な内容
- 報酬額、支払期日、支払方法
- 業務に関連する諸経費の取り扱い
- 成果物の納期や役務の提供期日
- 契約解除に関する条件
2.書面による契約内容の保管
特定業務委託事業者から提供される書面または電磁的記録による契約内容の明示を適切に保管しましょう。
これは後々のトラブル防止や、不当な扱いを受けた際の証拠として重要です。
3.適切な業務遂行
契約で合意した内容に基づいて、適切に業務を遂行することが求められます。
納期や品質などの約束事項を守ることで、円滑な取引関係を維持できます。
4.権利意識の向上
フリーランス新法によって保護される権利について理解を深め、不当な扱いを受けた場合は適切に対応することが大切です。
例えば、正当な理由のない報酬の減額や、著しく低い報酬の強要などには注意が必要です。
これらの点に留意することで、フリーランスとしての権利を守りつつ、適正な取引関係を築くことができます。
まとめ
フリーランス新法は、増加するフリーランスの就業環境改善と適正な取引促進を目的として制定されました。
この法律は、個人事業主や小規模法人を「特定受託事業者」として保護し、彼らに業務を委託する「特定業務委託事業者」に対して様々な義務を課しています。
主な規定内容には、契約内容の書面化義務、報酬支払期限のルール化、ハラスメント防止対策などが含まれ、違反に対しては罰則も設けられています。
特定業務委託事業者には、契約内容の明示、報酬支払いルールの遵守、不当な扱いの禁止、就業環境の整備、法令遵守体制の構築が求められます。これらの対応により、フリーランスとの公正な取引関係を築くことが期待されています。
一方、フリーランス側にも契約内容の確認、書面による契約内容の保管、適切な業務遂行、権利意識の向上が求められます。これらの対応により、自身の権利を守りつつ、適正な取引関係を築くことができます。
フリーランス新法は、フリーランスの権利保護と適正な取引環境の整備を促進する重要な一歩です。
発注者とフリーランスの双方が法律の趣旨を理解し、適切に対応することで、より健全なフリーランス市場の発展が期待されます。
この法律を通じて、多様な働き方が尊重され、誰もが安心して働ける社会の実現に近づくことが期待されます。
参考サイト
[1] https://www.mhlw.go.jp/content/000766340.pdf
フリーランスの定義:実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者
[2] https://www.oro.com/zac/blog/new-law-freelance/
[3] https://www.mhlw.go.jp/content/000766340.pdf
[4] flpamph.pdf (jftc.go.jp)